金木犀のアリア
詩月自身、弾けない辛さが生半可なものではないと、今実感している。



「あっ……」



詩月はお悔やみを済ませた後、リリィの娘から手渡された手紙を、ヴァイオリンケースの中に仕舞ったのを思い出した。



リリィの娘は手紙を読んだと言っていたが、詩月はリリィが恐らくアランに宛てた手紙を読むことは出来ずに、ヴァイオリンケースの中に仕舞いこんだままにしていた。



宛先はアランなのか?


アランに、この手紙を渡せば……。


確かめてみる他はないと詩月は疑問を振り払う。



「なあ……。お前のご主人は、時々でもヴァイオリンを弾いているのか?」



詩月は足元に座っている、白い猫に話しかける。



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