金木犀のアリア

白い猫は耳を微かに動かし、気だるそうに１つ欠伸し、前足を組み直した。



　電車が停車するたび、開く扉から風が吹き込む。



鎌倉駅で電車が停車すると、白い猫はすたすたと電車を降りた。



詩月もヴァイオリンケースを肩にかけ、学生鞄を手に電車を降りる。



改札を抜け、駅舎を出ると冷たい風が頬を撫でた。



白い猫は後ろを振り返らず先を歩く。



詩月は参道へと続く道を、いつぞやのように倒れてはならないと、先を歩く白い猫は気にせず、自分のペースでゆっくり歩く。



心配性の母親には、病院に寄って帰ると、メールを入れてある。



　色づいた紅葉の鮮やかな色が心まで癒す。



本宮へ上る、６１段の大石段の下まで来て、詩月は石段の頂上を見上げ、溜め息を漏らした。