金木犀のアリア
 見知った制服を着た、女子学生が会話しながら、詩月の方へ近づいてくる。




電車の中で会話していた女子学生の制服とは違っている。


詩月は自分にじっと、向けられている視線を感じた。


呼吸を乱さないよう、詩月はゆっくりと石段を上る。


後ろから上ってくる人の気配を感じ振り返る。



「お先にどうぞ」と石段の右端によけ、詩月は立ち止まる。



隣町のお嬢様高校の学生だ。



彼女たちは同じく右端に寄り、詩月を見上げた。



「今日はここの境内で弾くんですか?」




髪の短い方の女子が尋ねた。



ヴァイオリンを弾くつもりで、電車に乗ってきたのではないんだがと思い「……気が向いたら」と詩月は応える。




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