金木犀のアリア
黒いコートを羽織り、目深くに、帽子をかぶった男性が、風を切るように入ってきた。
男性は店内を見回し静かに、カウンター席に着いた。
詩月は深呼吸し自身の気を高め、ゆっくりとヴァイオリンを弾き始めた。
リリィがレッスンの終わり、詩月によく弾き聴かせたチャイコフスキーのヴァイオリン曲OP42ー3「懐かしい土地の思い出、メロディ」だ。
詩月は曲を弾きながら、店内に目を配る。
曲に集中しなきゃと思いながらも、頭の中で鶴岡八幡宮で倒れ意識を失う前のことを色々考えてしまう。
僅かに7分弱の曲は思いを巡らすうち、あっという間に弾き終えた。
残念ながら猫は現れなかった。
詩月が気落ちしヴァイオリンを仕舞い、カウンター席を振り返ると、黒いコートを羽織った男性と目があった。
マスターが詩月にそっと紅茶の入ったカップを手渡す。
詩月はカップで手を温めながら、男性をマジマジとみつめた。
背の高い男性、猫、チャイコフスキー、ヴァイオリン……詩月はハッとし「あ!」と声を漏らした。
帽子から微かに見える男性の顔に見覚えがあった。
「貴方は……鶴岡八幡宮で……」
「ヴァイオリンを弾き終え、君がいきなり倒れたので驚いた。学生証を探し自宅へ連絡し、救急車を呼んだ」
男性は店内を見回し静かに、カウンター席に着いた。
詩月は深呼吸し自身の気を高め、ゆっくりとヴァイオリンを弾き始めた。
リリィがレッスンの終わり、詩月によく弾き聴かせたチャイコフスキーのヴァイオリン曲OP42ー3「懐かしい土地の思い出、メロディ」だ。
詩月は曲を弾きながら、店内に目を配る。
曲に集中しなきゃと思いながらも、頭の中で鶴岡八幡宮で倒れ意識を失う前のことを色々考えてしまう。
僅かに7分弱の曲は思いを巡らすうち、あっという間に弾き終えた。
残念ながら猫は現れなかった。
詩月が気落ちしヴァイオリンを仕舞い、カウンター席を振り返ると、黒いコートを羽織った男性と目があった。
マスターが詩月にそっと紅茶の入ったカップを手渡す。
詩月はカップで手を温めながら、男性をマジマジとみつめた。
背の高い男性、猫、チャイコフスキー、ヴァイオリン……詩月はハッとし「あ!」と声を漏らした。
帽子から微かに見える男性の顔に見覚えがあった。
「貴方は……鶴岡八幡宮で……」
「ヴァイオリンを弾き終え、君がいきなり倒れたので驚いた。学生証を探し自宅へ連絡し、救急車を呼んだ」