金木犀のアリア
穏やかに包むこむようにリリィは詩月を諭した。



そして、落ち込む詩月を慰めるようにヴァイオリン演奏を聴かせた。



弾き聴かせるのは、いつもチャイコフスキーの「懐かしい土地の思い出」で、リリィの弾く「懐かしい土地の思い出」は、心の芯まで詩月を暖めた。



冬の寒い朝、起き抜けに温かい紅茶を口にし、じんわりと体が温もっていくような柔らかな音。



或いは、日だまりの中に誇らしく咲く向日葵のように凛と強く、励まし勇気づけた。



 詩月は着替えを済ませ、ヴァイオリンケースごとヴオリンを抱え、母親のヴァイオリン教室に向かう。



教室の扉を叩く前に、音を立てないようそっとノブを回し、数センチ隙間を開け中を覗く。


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