金木犀のアリア
もたもたしていると、母親の気が変わりそうな不安が、詩月を更に急がせた。




詩月はすっと、ヴァイオリンを構え、リリィに幾度も聴かせてもらった、チャイコフスキーの「懐かしい土地の思い出」を弾き始める。




リリィの日記が、母親とのわだかまりを解いてくれた感謝の気持ちを込める。



リリィに教えられた全てを母親に伝えるつもりで、詩月は思い切り演奏する。




ずっと、母に演奏を聴いてほしかったんだ。


母さん、あなたに「懐かしい土地の思い出」を聴いてほしかったんだ。




詩月は、思いが溢れて止まらなかった。



母さん。

リリィに引き合わせてくれて、ありがとう。


大事なヴァイオリンを弾かせてくれて、ありがとう。

詩月の胸に、言葉に出して言えない気持ちがこみあげる。



< 190 / 233 >

この作品をシェア

pagetop