金木犀のアリア
詩月が言葉に出して母親から、感想をもらえたのは、初めてだった。




「ありがとう……」



感極まり、詩月の唇が震える。



それ以上は言葉にならなかった。




「ちゃんと指のケアをして、無理はしないように」




母親が詩月に、穏やかな笑顔を向ける。




 ヴァイオリンのことで、母親と笑顔を交わせる。



詩月は、こんな優しいひとときが得られるなんて、思ってもいなかった。




「大事な指なんだから」



重みのある言葉だ。



演奏家への夢を断たれた痛みを誰よりも知る母の言葉だと、詩月は素直に受け入れ頷いた。




 ヴァイオリンをケースに仕舞おうとする詩月の手に母親がそっと触れた。



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