金木犀のアリア
 調子外れのピアノ演奏に首を傾げ、歌声に惹かれ聞き入ったのを、今も覚えている。



「いい歌だろ?」



尋ねたマスターに「沖縄の歌ですか?」と、尋ねた。



マスターが「そうだ」と深く頷き、しんみりと話してくれた歌の意味に、言葉を失った。




 美しい歌詞の裏に秘めた怒りと祈りと鎮魂。



頭の中を整理するために入った喫茶店なのに――。



胸の奥までえぐられるような衝撃は、胸に痛みさえ感じさせた。



作詞、作曲者が、たった1人のおばあさんに聴いてもらいたくて作った歌だという。



 冷めやらぬ感情に、思わず立ち上がり、「島唄」を歌い終えた彼女の元へ歩み寄った。



「ピアノを弾かせてほしい」と言うと、彼女は穏やかに笑みを溢し「どうぞ」と席を立った。


< 198 / 233 >

この作品をシェア

pagetop