金木犀のアリア
 普段はテーピングした指を隠しながら、何事もないように振る舞う。



「腱鞘炎」の噂を流した生徒会長はすれ違うたび、「ざまあみろ」みたいな顔を向けてきた。



舐められている……いや試されている



気持ちを切り替えて、練習に挑む日々。



 アランが、落ち込んだ僕を見かねて言った。



「ただ、上手く弾こうとするだけでは良い演奏はできない。

曲をがむしゃらに弾くのは音楽とは言わない。

対話をするんだ。音楽は……」



「音楽は心、ですね」



ニコリと微笑んだ。




アランに言われて、リリィを思い出した。



懸命にリハビリに励んでいるアランの姿を思い出した。



自らの到らなさと技量の無さ、器の無さが情けなく、猛省して、楽譜を読み直した。



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