金木犀のアリア

2話/金木犀

「安坂くん、大学の学オケのコンマスに抜擢されたんだって?」

 マスターが、カウンターから郁子に尋ねる。

 安坂貢は高校に隣接する大学で今秋、1年生ながら学内オーケストラのコンサートマスターとなった。

彼は詩月の同級生、緒方郁子の幼なじみだ。

「ん~、優等生っていうイメージが……」

「真面目すぎて、練習の虫なのかな?」

「そうなの。納得するまで弾かないと気がすまないみたいな。学オケメンバーは大変だと思う」

 マスターと郁子が話している。

「そうかな~。安坂さんはああ見えて結構、融通の利く人だと思うが」

 詩月は会話を聞いていて思わず、声をあげた。

「コンマスはスタンドプレーを許されない。集団に音を合わせたり、統率していくなんて……ゾッとする。体力も神経も持たないな」

 さらり言う。

 詩月は安坂と同じ教授に師事している。

ヴァイオリン専攻の安坂は高校時代、学内で1番の弾き手と言われ、大学でも一目おかれている。


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