金木犀のアリア
 昨年の梅雨時期、詩月は郁子に澄まし顔で話した。


「ピアニストが演奏する時、客席に向いているのは横顔だ。


ショパンは横顔が素晴らしく美しかった。


名演奏家と呼ばれるピアニストは横顔が美しい。

僕も横顔には自信がある」




郁子は、あれは詩月の冗談だと思い、深くは考えなかったが、今ならあの時の言葉の意味が理解できる。




「緒方郁子」



名前を呼ばれ、郁子はヴィオラを胸に颯爽と席を立ち実技試験に挑んだ。



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