金木犀のアリア
「咄嗟にピチカートなんて、よく思いついたよな。

……なんて度胸だ!?」



「自由曲は、弦を張り替えて弾いたらしいけれど……」



「あいつ、伊達に街頭演奏で慣らしてないよな」



 何処の世界にも必ず情報通の者がいる。


超高性能な聞き耳頭巾を装着しているのに違いない。


――朝から、教授陣が慌ただしいのは気のせいだろうか?



学内を騒がせている噂を繰り返し聞きながら、安坂貢は穏やかではない。


噂の当人、詩月は欠席している。



――受験の数日間、よほど体調が悪かったのだろう。


安坂は詩月の華奢な体型を思い浮かべる。



昨年秋。

詩月が体調不良を理由に、破格の条件での留学を辞退したことを思い出した。

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