金木犀のアリア
4章/予兆

1話/熱情

 紅葉が程好く色づく頃、2学期中間試験が行われる。


この時期、音楽科は放課後いつもの数倍増しに活気づく。


実技の試験に、課題曲と自由曲を1曲ずつ弾かなくてはならないため、練習室の予約がいっぱいで、予約にあぶれた学生が屋上や裏庭で各々の楽器で、様々な楽曲の練習をし、「モルダウ」で我先にと、練習した成果を披露する。



 音楽科の学生達の評価は、実に厳しい。


日頃、鍛えた音楽を聴く耳と感性は、優劣を見極め良い演奏には惜しみない拍手を贈るが、そうでない演奏には冷めた反応か酷評、野次が飛ぶ。



 課題曲の試験。

ピアノ実技の課題曲は、ベートーベン、ビアノソナタOP57 3楽章「熱情」。


この曲を弾く時、詩月が思い浮かべるのは源義経だ。


兄頼朝に忠義を尽くし、血気盛んに軍を率いて戦に挑み、戦の禁忌を犯し戦法を生み出しながら、勝利を重ねていく。



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