金木犀のアリア
技巧で誤魔化そうにも誤魔化せない。



弾きながら、息が切れ過呼吸になり目眩がしてくる、厄介な曲。



楽譜を放り投げたくなる。


気持ちに体力がついていかない。




練習を終えると指だけでなく、手首、肘、肩、首、背中、腰……身体中が軋む。


ピアノに限らず、楽器を奏でることは重労働だ。



指先だけ口先だけで演奏はできない、体力勝負だ。



『熱情』はとくに、それを実感させる。




爪、指の関節、手首が何度も悲鳴を上げる。



何度も途中で不協和音を鳴らし、放棄したくなる。




だが、……と詩月は気持ちを切り替え、持ち上げる。


そうして、負けられない相手の顔を思い浮かべる。



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