金木犀のアリア
あいつには負けられない。いや、負けたくない。




そう思える奴がいるって、すごく大事だと。



落ち込み気味でも前向きになれる気がする。



負けたくない、その気持ちが希望に繋がると。




繰り返す旋律。


絶頂から転落へ、吉野山へ愛する静御前と逃避行するも途中の別れ、そして北へ北へ平泉──桜舞う黄金郷に散った源義経。



熱情のうちに逝った魂は何を思い何を憂いて散ったのか?



源義経の魂は、未だ浄土を巡り、さ迷っている──。



詩月はふと、夕暮れの宵待草と、先日モルダウで再会した男性を思い浮かべた。



「彼を……、アランをそっとしておいてくれ」



マスターのあの言葉が気になった。



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