金木犀のアリア
詩月は、何度も繰り返し言われ続けてきた言葉を自分自身に言い聞かせた。




誰かの演奏を気にする必要などない。



自分にしか演奏できない演奏がある。



十人十色、どれひとつとして同じ演奏はない。



自分にしか出せない音があり、味があると。



 前の学生の平凡な演奏が終わった。



「『Let it be.』だ」




「えっ!?」




詩月は余裕だなと言った学生に、そっと耳打ちをした。




「あるがままに、君にしか弾けない『熱情』がある」



詩月は学生の肩をポンと叩き、開いていた楽譜を整えて立ち上がった。




───今日は、上手く弾けた気がする。



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