金木犀のアリア
 曲を弾き終え、詩月が達成感に浸っていると、郁子が詩月に声をかけた。




「ねぇ貴方、『熱情』を弾きながら何を考えてたの?」




「ん?『源義経』と『Let It Be』かな」




詩月は、平然とこたえる。



「はあ?」



郁子は、間の抜けた声をあげ詩月の顔を見る。




「あんなに楽しそうな顔して『熱情』を弾く人、初めて見たわ」




「そう? 結構、いっぱいいっぱいだったんだけど……指が吊りそうで、呼吸もやばかった」




詩月は、言いながら掌を思い切り広げて見せた。



間を置かずに郁子が、詩月に訊ねる。




詩月は相変わらずよく喋るなと思う。



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