金木犀のアリア

4話/宵待草

 詩月はサラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」を順番待ちしながら、前の学生の演奏に耳を傾けている。



聴きながら、音譜をぼんやりと追う。



試験なのだ。


真面目に正調ツィゴイネルワイゼンを弾くのが定石だとは思う。



与えられた譜面通りに弾いて何が楽しいんだ?



詩月は考える。


5分もの持ち時間を与えられ、アレンジしないで弾くのもつまらない話だよなと詩月に心の声が囁く。



詩月はやっちゃえよ、弾いたもん勝ちだぜと、悪戯に煽ってくる頭の中の声を振り払おうとするが、どうにも修まらない。



 郁子と話した先日の話題を思い出す。



検証してみたい、その思いが次第に高鳴る。

< 84 / 233 >

この作品をシェア

pagetop