金木犀のアリア
詩月は思い、音譜を目で追いながら頭の中で、しきりにイメージを膨らませる。


 あの夕暮れの日以来。

度々思い出す「宵待草」の音色が頭を過った。


夕陽を浴び、ヴァイオリンを弾く男性のシルエット。


名も知らぬ男性と音を重ね演奏した記憶が、頭から離れない。


重なるヴァイオリンの音。

「宵待草」の歌詞が鮮明に浮かんだ。


待ち人来たらず……物悲しい歌詞が、歌曲フォーレの歌詞と被る。




「次、周桜詩月」

抑揚のない教授の冷たい声が響く。



 大正2年。
竹久夢二は30歳の時に出版した、第1詩集『どんたく』に「宵待草」は掲載されている。



「宵待草」

待てど暮らせど来ぬ人を
宵待草のやるせなさ
今宵は月も出ぬそうな
(竹久夢二 作詞)



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