金木犀のアリア
詩月は、美術館の展示で観た竹久夢二の描いた美人画は、憂いを帯び、どこか儚げで頼りなかったなと思う。


人間の持つ弱さや甘さを肯定しながら、どこか感傷的で、細身でなで肩の華奢な涙の似合う女性。



会えるあてもない女性を待ちながら、マツヨイグサに思いを託した旋律。


夢二の美人画と宵待草の曲を思い出しつつ、何気ない仕草で佇む女性と、喫茶店モルダウで、学生たちの演奏を聴いていたリリィの姿を思い浮かべた。




 詩月は、すくっと立ち上がり教授の前に歩み出て、ヴァイオリンを構える。



弾き始めたのは、サラサーテのツィゴイネルワイゼンではなかった。



風の匂い、雨の音、陽の光や何気ない笑顔、頬を伝う涙。


溢れ出す思いに、感情が溢れ指が、自然に動く。



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