金木犀のアリア
昨年、秋。

先天性の心臓疾患で虚弱体質のため、詩月が主治医から許可をもらえず留学を諦めた時、失意のまま涙しながら屋上で弾いたヴァイオリン。



あの時は、まだ自分自身の音楽を探していた。



詩月は、1年前を振り返る。


 音楽は、停止画ではなく動画であり、変化し続ける。



音楽は生きて、呼吸している。


詩月は思う。



音楽は心だ。
伝えたい心があり、思いがある。
伝えたいメッセージが音になる。



詩月はヴァイオリンのコンクールを勧める教授への返事をずっと、頑なに断り続けてきた。


が「音楽は楽しい」と、思える、今なら自分の音楽を伝えられる。


そう思い、新学期早々に教授から薦められたコンクール出場を決めた。



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