ご主人様に監禁されて
「ふむ、なるほど。その脅してきた男は私の息子だろう」
「はい」
多分そうだ。
調べていくうちにルイ・ヒューアスということがわかっていた。
ルコーラもヒューアスと名乗っていたこから、血縁関係を推測するのは容易い。
「そして、そのご令嬢とは誰だね」
「……え?」
何を言ってるのかわからなかった。
彼女は『たぶん旦那だ』としか言ってくれなかったし、だからこそムカつくとしか言わなかった。
しかし、父である彼はそれを知らない。
どういうことだ?まさか内緒で結婚しているとか?
いや、もしかしたら『ご主人さま』とは単に趣味で、実は妹とかなのかもしれない。
少なくともカサンデュールにはそんな風習はないから、彼自身の趣味だろう。
「ええっと、高校生くらいの大きさで、でも学校に通ってない女の子だそうです」
「……高校生くらい、ねえ…」
ニヤリとほくそ笑んだ。
高遠は腹の底からぞくりと冷える感触を味わった。
なんだこの男は、なんだこの笑みは。
言いようのない恐ろしさと、不快さだった。
「ありがとう、聞きたい情報が聞けたよ」
「あの、その人って、一体どういう関係なんですか?」
「ん?ああ一一私の1人娘のエルナリーゼだ。エルナリーゼ・ヒューアスだ」
「娘さん……だったんですか」
ということは、やはり妹か。
カサンデュール人は妹に偏愛するのか…いや、たぶんそれもルイの趣味だろう。
「ああ。とても愛してたのだがね、エルとはすれ違ってしまって、勘当してたんだ。それを兄である彼が匿ってるんだろうな」
「なるほど」
それにしても、彼はずいぶん難しい日本語を知ってる。
感心していると、彼はなにかに気づいたように言った。
「ああそうだ、きみ、今度お姉様に秘密事項を伝えたい時は、電話か直接会うことをオススメする」
「っ、」
咄嗟に言葉がでなかった。
高遠は姉に『すぐさまそこを離れるように』と持っている情報をすべてさらけ出した警告書のような手紙を出していた。
きっとそのことを言ってるのだ。
そして彼は、それから高遠に接触してきたのだ。
「……読んだんですね」
「日本語は喋れるのだが読むのは苦手でな、秘書に読ませた。…よく調べてあるな。感心した」
「たまたま僕の通ってる大学の教授が海外の歴史を調べることに命を注いでる人でして。カサンデュールのことも調べていました」
「普通に調べても出てこないはずなのに。流石だ」
「宗教に関心があったそうです。ええと、タラック教に」
「まあ異質だからな。しかし、私のことを調べたのは危ういな」
「……」
「シャリル王女暗殺の首謀者ということまで手紙に書く必要はなかっただろうに」
だから、嫌だった。
高遠はルコーラが恐ろしかった。
日本の常識では暗殺なんて信じられない。
それを平然と地位だけを羨望してこなしてしまうなんて、恐ろしいことこの上ない。
一番会いたくなかった人に接触されたのだ。
「その、いかにそこが危ないかを伝えるのに必死で…」
「姉を助けたいという気持ちはわからないでもない。だが、あまり突っ込むな」
…半端ではない威圧だった。
さすが首謀者というか、本気で殺しそうだった。
心臓を掴まれたような、失禁しそうになる恐怖。
幼い頃に見たなまはげより恐ろしい。
「これ以上突っ込まないと誓え」
「つ、突っ込みません」
「よし。…君の彼女の件だが、安心してくれて構わない。ルイはそのうちカサンデュールに戻すつもりだからな」
「ありがとうございます…」
ころりと殺気を無くし、笑ってきた。
しかしあの殺気を見たあとでは、笑みは信じられなかった。
「君には感謝をしているよ。これで確信がもてた。娘の居場所が掴めた」
「あ…そ、そうですか」
ウキウキとしたようにそういう彼に、高遠は唖然とするしかなかった。