ご主人様に監禁されて
『気を張らなくても、優しくしなくても、王女を演じなくてもいい相手一一それがティンなんだ。
民間の出で、しかも異国人。
姫にとって一つも利のない執事だ、何回も長老どもが変えるように言ったらしい。
なのに、それだけは姫は譲らなかったんだ。
他のどんなことも受け入れてきた姫が…』
『……あのことを言ってるのか、兄さん』
リルは一一目の前で両親を亡くしている。
これは国家の秘密中の秘密だから表向きは事故死となっているが、本当は他殺である。
カサンデュールをよく思わない反カサンデュール派が、日本で暮らしていたリル一家を襲ったとされていた
母は王女、父はカサンデュールの神官。
反カサンデュール派にとっては恨みを晴らす格好の餌であったからそのような説が立った。
……実際は権力争いという事実を隠すためなのだが。
そんなトラウマを感じさせないほどの明るさを持つ彼女。
そう一一恐ろしいことに、彼女は両親の殺戮でさえ受け入れてしまったのだ。
それもリルの身を案じた国のものがカサンデュールにすぐに逃がした時には、もう完全に受け入れていた。
だって、ティンを連れて行くということが脳裏によぎって一一実行することができたのだから。
『そんな姫さまが唯一譲らない…恐ろしい存在だとは思わないか、ルイ』
『…確かに…』
ルイには当てはまる節があった。
先ほど、ティン専用の部屋を用意させた時だった。
『部屋を別にするくらいなら出て行きます』
リルはそう言って、同じ部屋にベッドを運ばせたのである。
その時の目には異常さが光ってなかっただろうか。
ティンも、それが当然と言わんばかりの一一
「…どうやら僕は、面倒な子供ばかりに縁があるようだな」
日本語でそうつぶやいて、ため息をついたのであった。