YUME話
彼が私をそう呼ぶのは初めてだった。
本来、正式な場ではそう呼ばなければいけないのだが、彼は頑なに私を「日の宮」と呼びつづけた。
「いいだろう。藤壺、この子は今まで、わがままを言ったことがないのだ。それがこんな時間にわがままを言うのはよっぽどお前を慕っているのだ。許してやってくれ。」
私は、はい、と返事をした。
帝は気を利かせたのか、布団から起き上がり、その上、御簾から出て行った。
入れ替わりに、二の君が御簾の中へ入ってきた。
私の前に座ると、梳ったばかりの髪にそっと触れた。
「本当は・・・本当は一生、貴女を日の宮様とお呼びしたかったのです。僕は、認めたくなかったのです。貴女が・・・」
急に真剣な瞳で私を見た。
夜の闇より、深い深い真っ黒な瞳で。