ベランダから見える星
「この娘が西園寺さんの…
 ごめんなさい,迷惑をかけて。」


「そんなことないですっ
 それより…」


『未緒さんは今どうしてるんですか』そう聞こうと思ったけど,私が聞くことじゃないような気がして言葉を飲み込んだ。



「音緒は元気?どんな子?
 施設にいたころは美子ママが教えてくれてたんだけど…」


「元気ですよ。
 すごく俺様で,ご飯とか全然作らなくて,猫が大好きで優しい人です。」


「そう…」


小さく呟いたときに見せた表情は“母親”だった。


今も音緒の幸せを願っているんだろう。


でも,私はその願い方は違うと思うし,音緒はもう知ってるんだ。



「音緒に会っていかれませんか?」


返事は分かっていたけど敢えて聞いた。


一瞬だけ『会いたい』という気持ちを見せたが,未緒さんは首を横に振った。



「今日,音緒と一緒に来てるんです。
 もうすぐ戻ってきますよ?」


いきなり会わせると未緒さんが戸惑っちゃいそうだから…と思って言ったら,勢いよくドアに向かって歩き出した。


制止の言葉も忘れて呆然と未緒さんを見ていた。


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