ベランダから見える星
「静が生まれたときは嬉しかった。
 結婚してよかったと初めて思ったくらい。
 君江が名前を決めたがっていたが,それだけは譲れなくてな。
 そこではじめて君江に逆らった。
 “静”ずっと子供につけたいと思っていた名前をやっと付けることが出来た。」


翠さんに聞いた話をお父さんから聞くとまた何か違う思いが込み上げてきたが,言葉には表せなかった。


私はお父さんの語る,昔話を気付けば身を乗り出して聞いていた。



「静を溺愛してきた君江は京介が生まれてから変わっていった。
 でも,それは俺に原因があるんだ。」


「どういうこと…?」


「俺は京介が生まれても,静と同様に愛してやれなかった。
 いつも静ばっかり構っていたんだ。
 そして京介が小学生になって優秀な生徒になっていくと,静は君江にとって……必要じゃなくなったんだ。」


あぁ,それはあの人の口から聞いた。


『もうあんたは必要じゃないの』そう面と向かって言われたのは多分,一生忘れない。


そのとき,味方はお父さんだけだと思った。


けど違ったんだ。


お父さんも敵だった,無関心という名の…



「はじめは『静は悪くない』と虐待を止めていた。
 けどそれが逆効果だとしばらくして気がついたんだ。
 俺が何かを言えば言うほど,静の体に傷が増えた。
 もう見ていられなかった…」


『それから何も言わないようにしたんだ』お父さんがポツリと吐き出した言葉から申し訳なさが伝わってくるようだった。


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