ベランダから見える星
小さい頃の記憶がはっきり残っているわけじゃない。


だからこそ,はっきり覚えている記憶で私は“父親”を作り上げたのだ。


娘に無関心で,薄情で,最低な父親を。


お父さんの想いなど知らずに。



「離婚が決まったとき,静を引き取る意思を君江の両親に告げた。
 あの人たちは静の味方だったんだよ。」


…婆様たちが?


接触することは年に2回,お盆とお正月だけだった。


確かにその短い間はあの人は大人しいものだった。



「でも,静を引き取るって言ったものの,随分会話をしてなかっただろう。
 戸惑いが大きかった。
 嫌われているのも分かっていたから余計に。
 なんとか翠のおかげで声はかけてみるけど,思っていたより溝は深かった。
 埋めようにも静は一人暮しなんか始めるし。」


私は,知らず知らずに和解の場を逃がしていたみたい。


けど,静奈の…翠さんのおかげで少しは修復出来そうだから。



「私ね,ずっと助けてほしかったの。
 誰でもいいから…ってずっと。
 でも,年を重ねるに連れて“諦め”が90%を占めてて。
 何もかもがどうでもよくなった。」


そう。


お父さんが私をあの家から出してくれるまで。


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