俺、兄貴になりました
ナポリタンを作りながら、陽がボソっと呟いた。
「手料理とか、久しぶりだ」
久しぶり?
「なんで?」
「母さんは仕事でいつもいないし、たまに帰ってきても料理は下手で食べれるってもんじゃないから」
そんなに酷いのか、高野さんの料理……。
「父さんが家を出て行っちゃったのが、恋にぃと蒼にぃが中1の時って聞いた。
翠にぃから下の俺らは、違う父親なんだけど、その父親も俺が小3の時出て行ったんだ。だから、尚と慎は父さんのことを知らない」
そうか、だから雷と煌の双子と翠の間は2歳離れてるのか。
それ以外は一歳差なのに。
「恋にぃと蒼にぃは、家計を支えるためにスカウトされてた芸能界に入ったんだ。でも、あの二人は似すぎてて見分けがつかないでしょ?
母さんだって今だに見分けがつかないんだ。仕事でほとんど家にいなかったし」
母親が、見分けがつかないって……。
子供にとって、それは何よりも辛いんじゃないか?
「テレビでは笑ってるけど、辛いと思うよ。口には出さないけど、恋にぃと蒼にぃは長男だから、俺たちの面倒を見なきゃいけない。
俺たちは二人に甘えられるけど、二人は甘えられる人も、頼れる人もいないんだ。周りは、もう高校三年生でしょ?って。しっかりしなきゃダメだよって言うくせに、二人の区別もできないんだ。ちゃんと二人を見てくれないんだ。
そんなの不公平だよ。俺たちからしたら、二人はもう頑張り過ぎてるくらいだ。
だから……」
俺は陽の頭にポンと手を置いた。
俺の顔を見上げる陽に、真っ直ぐ目を見て言ってやる。
「お前ら兄弟の気持ちは分かったよ。俺は今日からお前らの兄貴だ。恋も蒼も、俺の大事な弟だ。
初めは無理かもしれないが、必ずあいつらのことちゃんと見て、区別も出来るようになってやるよ」
俺のその言葉に、陽は涙目になった。
「あの二人の本当の笑顔、見たことないんだ。笑ってるけど、笑ってない……」
「分かった。俺がアイツを笑顔にしてやるから」
それからナポリタンを完成させ、テーブルに並べた。
10人分ってのは、流石に疲れるな。