薬品と恋心
その日からジーニアスは調合室にこもりきりになり、しばらく会えない日が続いた。
ティアはジーニアスに心配をかけないようにするため、約束通り町の門の外に行かないようにしていた。
いつまた追手に襲われるかわからないため、出掛けるときはなるべく人がたくさん居るところを通った。
人がたくさん居るところでなら追手もそうそう無茶なことはできないだろうと考えてのことだった。
ずっと宿にこもりっぱなしも落ち着かないので、ティアはたびたび「プランツ」に来ては店主とたわいもない話をして過ごしていた。
そして今日もティアは「プランツ」にいた。
しかし、今日はいつもと違った。
「プランツ」にあまりにも似合わない、珍しいお客が来店したのだ。
「いらっしゃい……へっ?」
カロン、といつの間にか壊れて気の抜けた音を鳴らすベルの音を耳にして、出入り口に目を向けた店主は間の抜けた顔をして固まった。
(どうかしたのかな?)
ティアも後ろを振り返って驚いた。
「…え!?」
フリルたっぷりのドレスを身にまとった艶やかな微笑みをその顔にたたえる少女。
書庫で会った少女がそこにいた。
その後ろにはジーニアスがいる屋敷の執事さんが控えている。
「ごきげんよう」
少女はゆったりとした足どりで店内に入り、ティアに近づいた。
「今日は貴女に話があって、迎えにきたのよ」
「…話?」
ー何の話なのだろう。
少女は戸惑うティアの手を引くと扉に向かって歩き出す。
「えっ、あの…?」
「さ、早くいきましょう」
ティアはよくわからないまま、外にとめてあった馬車に乗せられ、プランツを後にした。