薬品と恋心
動き始めた心
着いた先は城だった。
ノルヴァンシュタイン城。王族が住んでいる城だ。
王都にいた頃は窓から見えるこの城を毎日のように眺めていた。
社交界デビューしたならあそこに行くのだと幼い頃はそう思っていた。
身分的には何ら問題などなかった頃の話だ。
まさか、そこにこうして来ることができるなんて思わなかった。
ティアはレティシアに続いて馬車を降り、レンガ色の石畳に足をつける。
藤色の繊細なドレスはそれだけで風をわずかにはらみ、ふわりと揺れて可憐な動きをみせる。
ふと視線を上向けると、ジーニアスと目があった。
二人が降りてくるのを待ってくれていたのだ。
ジーニアスは一瞬目を見開いたあと、すぐに視線をレティシアに向けてその手を取った。
その二人の後ろをティアはついて歩く。
レティシアをエスコートするジーニアスは、正装をしていた。
首もとまで留められたボタン、きちんと結んであるタイに上質な上着。纏う雰囲気までもが高貴な貴族のようだった。
いつもとはまったく違って、まるでジーニアスが王子様のように見えるのはティアの気のせいだろうか。