薬品と恋心
仮面舞踏会でもないのに仮面を着けているほうがかえって目立つ気もするが、テラスでは逆にそれが月明かりに照らされて儚げな印象を与えていた。
存在感はある、それなのに。
手が届きそうで届かないひとときの幻のように今にも消えてしまいそうで。
でも触れることは許されない、そんな印象を受けた。
「今ごろ探してるかもしれませんが…まぁ、大丈夫でしょう」
夜風に揺れる赤銅色の髪。
会いたいからと抜け出して来てくれるところはティアの記憶にあるジークと重なる。
(会いたかった。会いたかったよ、ジーク。でも…)
まだこの人がジークとわかったわけではないのに胸が締め付けられて切なくなる。
ティアは一度瞳を伏せて心を落ち着かせる。
ー確かめなくては。この人がジークなのかを。
ーそうしないと後にも先にも進めない。
「…あの」
ティアは視線を仮面の男に向けると意を決して言葉を発した。
「あなたはジークですか…?」