薬品と恋心
「はい」
「……!!」
心構えをしていたつもりだったのに、何かがのどにつまったように声が出なかった。
同時に心にわずかな罪悪感が生まれる。
「お手をどうぞ、お姫さま」
仮面の男は「踊りませんか」とでもいうように手を差し出した。
夢にまでみた憧れの場景。
少し前だったら、迷わずこの手を取っていただろう。
ーだけど。
(ごめんなさい、ジーク…)
ティアはドレスの前で重ね合わせた手をギュッと握りしめた。
(私には大事な人がいるの)
ーきっと、貴方よりも。
だから、この手を取ることはできない。