薬品と恋心

「…貴女はお美しいですね」


仮面の男はティアを眺めながらつぶやいた。



「人を捜すために来たのだとしても…貴女が来てくれたおかげでひとまずジーニアスの周りも落ち着くでしょう」



「…どういうことですか?」



「ああ…ジーニアスから聞いていないのですか。彼は王都に戻ったら婚約を発表することになっているんですよ。婚約者と一緒に帰ってきたとなれば、他のお嬢さん方もおとなしくなるでしょう」



ージーニアスがまだ婚約を発表していなかった?


レティシア様との婚約を隠す理由があったのだろうか。



(身分が違うから、とか?)



理由はわからなかったが、ジーニアスにも貴族としてのしがらみがいろいろあるのだろう。



「今まで逃げ回っていたのですが、ようやく戻って来ましたのでね。帰ってきたのは貴女のおかげです。ありがとうございます」



仮面の男は柔らかい声でそう言うと軽く頭を下げた。



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