薬品と恋心
ティアは仮面の男の言葉に違和感を覚えて首をかしげた。
ジーニアスとレティシアは婚約者のはず。遅かれ早かれ公表するのは避けられないのに、逃げ回っていたとはどういうことなのだろう。
ーそれに。
「私のおかげ…?」
「ええ、そうです。婚約を発表したら今までのようにフラフラと出掛けていくこともできなくなるでしょうから。きっとそれが嫌で帰って来なかったのでしょうが…貴女のおかげで帰ってきましたね」
(私が舞踏会に参加すると言ったから…?)
ージーニアスは王都に帰りたくなかったのに私がそうさせた?
ジーニアスの寂しげな顔が脳裏に浮かぶ。
ティアの無理な頼みを受けてくれたジーニアス。引き受けてしまったら王都に行かざるを得ないのにそうしてくれた。
そんなこと知らなかった。
自由でいたいから王都に戻らず、そのために婚約を発表できていなかっただけなのだ。
レティシア様との婚約を隠していたわけではなく、その機会がなかっただけだったのだ。
(…ジーニアスの自由を奪ったのは…私?)
その考えに行き着いたティアは愕然とした。
足に力が入らなくなり、今にも倒れてしまいそうになるのを、唇をかみしめてなんとか踏みとどまる。