薬品と恋心
会場へ続くガラス扉を通り、人々がにぎわう会場を素通りして廊下に出るとジーニアスはティアを横抱きにして歩を早めた。
「…ジー…ニアス…!?」
「しっかりつかまってて」
前を向いたままの真剣な顔。
少しばかり焦りの色がそこから伺える。
ティアは言われるままにジーニアスの首に手をまわし、その肩に顔を埋めた。
会場に比べて人が少ないとはいえ、周りに人がいるに違いない。
しかし、どう見られるかなど今のティアにはどうでもよかった。
幼い体に戻ろうとしている体の苦しさが勝り、もはや周りなど見ている余裕がなくなっていたのだ。
胸に感じる鼓動は自分のものなのか、または密着しているジーニアスのものなのかもわからない。
ただ感じられるのは自分を抱えてくれているジーニアスの逞しい腕。
(ジーニアス…)
苦しいとき、大変なときに頼れる人がいる。
それがこんなにも心強いことをティアは初めて知った。