薬品と恋心

ドアはカチャリと小さな音をたてて開いた。


そっと少しだけ開けて中をのぞき見る。


彼女がすぐに視界に入るかと思っていたが、そこから見る限り彼女の姿は見つけられなかった。



(そんなバカな!?あのドレスで見つけられないはずは…)



確かに入ったと思ったのに見間違えたのだろうか。



(そんなはずはないと思うんだが…)



男は部屋に足を踏み入れ、あたりを見回した。


部屋は静かなもので調度品を触った形跡もなく、部屋に入ったはずの彼女の姿もない。



(どういうことだ?)



ふと顔を上げると、バルコニーに続く大きな窓が目に入った。


もしかしたらそこにいるかもしれない。


男はベッドの横を通り過ぎようとしてふと足を止めた。


視界の端にドレスの裾を捉えたのだ。
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