薬品と恋心
ー片想い…なのだろうか。
「それは…舞踏会のときにできたのか…?」
「…はい。大切な人だと気づいたんです」
「そっ…か」
ティアに好きな人ができた。
それは決して悪いことではない。むしろいいことだ。
薬を完全に解除するには好きな人との口づけが必要なのだから。
ー喜んであげるべきなのに。
胸がひどく痛んでとても喜んではやれそうにない。
自分がジークであること、過去にティアに薬を飲ませてしまったことを今謝るべきだということはわかっている。
そして、ティアが好きな人と想いを通わせることができるように協力しなければいけない。
それがあの日ティアに薬を飲ませた者として、しなければならないことだということもわかっている。
ーそれなのに。
舞踏会に連れて行くべきではなかったという思いが渦巻いている。
好きな人はジークではないと言われることを考えなかったわけじゃない。
でもどこか期待していた自分がいたのだろう。
ー心が、ひどく痛かった。