薬品と恋心
「ジーニアス…?」
いつの間にか視線が下がっていたらしい。
声をかけられてはじかれたように顔を上げると心配そうにジーニアスを見るティアが目に入った。
(心配…してくれているのか)
ジーニアスはティアに手を伸ばし、その頬に触れた。
柔らかな温もりが手を通して伝わってくる。
ティアは視線をそらすことはせず、ただジーニアスを見つめていた。
真っ直ぐで綺麗な瞳。
その瞳に映りたいと思っていた。
ーでも、そこに映ったのは自分ではなかった。
ただ、それだけのことだ。
ジーニアスはふっと息をついて微笑んだ。
ー自分は一体何を望んでいたのだろうか。
ティアがスカーフを大事に持ってくれている。
まだ、会いたいと思ってくれている。
ーそれだけで十分じゃないか。
言おう。
自分がティアの探していた人であることを。
「…ティア、あのさ…オレ、言いたいことが」
意を決して話そうとしたとき、
ゴーン…!ゴーン…!ゴーン…!
ジーニアスの言葉を遮るように町の鐘の音が鳴り響いた。