薬品と恋心
「待ってるから」
ティアの頬に触れていた手が離れていく。
離れていく温もりにどうしようもない寂しさが募る。
ー最後にもう一度だけ、ジーニアスの温かさを感じたい。
ダメだと頭ではわかっている。
わかっているのに、心や体が勝手な行動をするのを止められない。
「…っ、ジーニアス」
「ん?」
ティアは足を一歩踏み出し、ジーニアスの襟を掴んで自分のもとへ軽く引き寄せ、背伸びをした。
ジーニアスとの距離がぐんと近くなる。
いずれジーニアスは自分のことなど忘れてしまうだろう。
ーだからこそ。
頭の片隅でいいから自分がいたことを覚えておいてほしかった。
ーあなたのことが好きだった女がいたことを。
ティアはジーニアスの薄紅色の唇に自分の唇を重ねあわせる。
柔らかな感触がそこから伝わり、熱を持つと同時に何かが壊れる音がした。