薬品と恋心
「王子殿下が何用でこんなところに?我らの結婚を祝いに来てくださったのなら歓迎いたしますぞ」
「いや…私は婚約者を返してもらいに参ったのです」
「…なに…っ!?」
ジーニアスはすぐさま視線をティアに移し、手を差し出すと同時に叫んだ。
「ティア、来い!!」
ジーニアスの真剣な瞳とその言葉がティアを一瞬にして捕らえる。
気がつくと、ティアはドレスをひるがえしてジーニアスの元に走り出していた。
ー自分がジーニアスの婚約者?
いつ婚約したのか記憶にはないし、ジーニアスの婚約者はレティシアだったはず。
ー本当にこれは現実なのだろうか?
もしかしたら、都合の良い夢かもしれない。
ーここにいるジーニアスは触れたら消えてしまうのではないか。
目の前の出来事が信じられない気持ちを抱えながらティアはジーニアスに手を伸ばした。
伸ばした手はしっかりとジーニアスに掴まれ、ティアはその腕の中に引き寄せられた。
感じるジーニアスの体温。
ジーニアスの胸からの規則正しい鼓動が耳に届く。
ー幻ではなかった。