薬品と恋心
どのくらい時間が経過しただろうか。
極度の緊張状態のティアとは反対に、叔父はのんびりあくびをした。
「…そんなはずないか。あれだけ脅しておいたし、今さら逃げはするまい」
叔父はパタンと扉を閉め、部屋の中へ戻っていった。
ティアは耳をすまし、叔父がベッドの中へ入ったのを確認してホッと息をついた。
しかし、これで終わりではない。
ティアは額の汗を手でぬぐうと、すぐにその場を離れ、玄関ホールに向かって足を進めた。
階段を下り、玄関ホールにたどりつく。
ホールの上の窓から月明かりが差し込み、昼とまったく違う幻想的な景色をうつしだしていた。
昼間見てもそう気にならない彫像は立体感が生まれ、普段なら見えない柱の繊細な模様がよくわかる。
古いだけだと思っていた屋敷は元は繊細なつくりだったらしい。
一瞬目を奪われそうになってしまったが、今は芸術観賞をしている時ではない。
ティアは外へ続く玄関扉には手をかけず、ホール横の客間へと急いだ。
中に入ると内側から鍵をかけ、窓から庭へおりる。
できるだけ遠くに逃げるための時間かせぎのため、あえてティアは玄関から出なかった。
そして、門まで一目散に走り、やがてティアは夜の闇の中へと消えていった。