薬品と恋心
「なんだい、兄ちゃん。こんなに賑わっているのにため息なんてつかないでくれよ」
重そうな箱を抱えた近くの出店のオヤジが渋い顔をする。
「だってさぁ、気になる子に会えないんだよ?ため息もつきたくなるってもんだよ」
「なんだい、フラれたのか?」
「…や、そういうわけじゃないんだけど」
フラれるもなにも、あの子とは一回しか会ったことがない。
しかも彼女と話すらしておらず、わかったのはティアという名前だけ。
ただ、薬草販売店で会ったあの子が気にかかるのは確かだ。
あれから何度か店に足を運んでみたが、「よく遊びに来る」と言っていたのにもかかわらず、会うことはかなわなかった。
「はっはっは!!あんたみたいな男前をふる女がいるなんてな!!」
オヤジは愉快だ、とでもいうように大笑いをしたあと、青年にズイッと近づいた。