薬品と恋心
「いいか、どうしても欲しい女は何があっても手放すな。逃げるなら追いかけろ。なぁに、女は押しに弱いもんだ」
自分の経験からのアドバイスだ、とウインクをとばしてくる。
それを払いのけるしぐさをしながら青年はげんなりとした顔をする。
「だから、違うっていってるのに」
「わしも昔はこう見えて…」
荷物を足下に置き、長々と話をはじめたオヤジの言葉に適当に相づちをうちながら、人が行き交う大通りを眺める。
すると、青年の目がひとりの人影をとらえた。
ーいた。あの子だ。
一瞬しか見えなかったが、目深にかぶったフードに、警戒心の見える瞳。
小さな体はすぐに人込みに埋もれ、今追いかけなければ見失ってしまう。
青年は持っていた飲み物をオヤジに押し付けると、すぐさま駆け出した。
「おおっ!?彼女が見つかったのか?」
いきなり走りだした青年に驚き、オヤジはすっとんきょうな声を上げる。
「ああ、そこにいたんだ!」
後ろから聞こえる「頑張れよ~」というオヤジの声に後押しされながら、青年は小さな背中を追いかけて人込みに飛び込んだ。