薬品と恋心
「幻の採取人を探してるようだな」
最後のひとりが帰ったあと、店主はカウンターに片肘をつき、そこにいた子供に話かけた。
「聞こえてましたよ」と落ち着いた声が返ってくる。
「幻の採取人か。その正体をたとえ知っていたとしても話せるわけがないよなあ」
店主は天井を仰ぎながら独り言のようにつぶやいた。
子供はそれに答えず、グラスに口をつける。
男たちが帰るのを待ってから飲んだジュースは、ずいぶん氷が溶けてしまい味が薄かった。
「なあ、幻の採取人さんよ」
店主はニッと口の端を上げながらこちらを覗きこんできた。
「その時期にその地域で採れる依頼をうけているだけです」
グラスを置いてすました顔で答えると、店主は口元を押さえ、「そうだったな」といいながら小さく笑った。