薬品と恋心
「それに、子供らしくないその落ち着き。ひとりで立ってる気がするからな」
(なかなか鋭い)
ティアのまわりの空気がピリッと緊張感を帯びる。
「だから、何してるのかと気になったんだ。しかも、裏通りの薬草店の常連だというじゃないか」
このまま言わなければ、この屋敷に入れてくれなくなるかもしれない。
せっかくたくさんの文献を読める機会に巡り会えたのだ。
ー話さないのは得策ではない。
ティアは静かに息を整えると、ジーニアスをまっすぐみつめた。
「私の仕事は、薬草店で依頼を聞くことです」
「依頼を聞く?誰かに伝言でもしているのか?」
「…まあ、そんなとこです」
依頼を聞くーそれは決して嘘ではない。
だけど、伝言はしていない。
ほのかについた嘘にちくりと胸が痛む。
「誰に伝えてるんだ?」
「それは言えません」
伝える相手がいないのだから言えるはずがない。
「…まあそれは仕方ないな。ともかく、依頼を聞く仕事をしてるんだな」
「はい」
ジーニアスはあごに手をあててしばらく考えこんでいたが、それ以上ティアに何か言うことはなかった。