薬品と恋心
お願い
ジーニアスは調合室である文書を読んでいた。
コンコン、と調合室の扉を叩く音が耳に届き、ジーニアスは顔をあげた。
どうぞ、とも言っていないのに勝手に扉は開けられ、足にまとわりつきそうなフリルたっぷりのドレスを身にまとった女性が入ってくる。
見た目は女性というより、子供のようでとても20代とは思えない。
彼女はこの屋敷の主だ。
「ねぇ、ジーニアス」
やや甘い声で彼女ーレティシアが来るときは決まって頼みごとがあるときだ。
ジーニアスは文書を机の上に置くと、ややめんどくさそうな目をレティシアに向ける。
「何か用?」
「ええ。……あら?」
レティシアはジーニアスが机に置いた文書に興味を示した。
「これを貴方が見るなんて…」
レティシアがそれに手を伸ばそうとしたとき、
「それより、用件は?何か用事があったからきたんだろ」
ジーニアスの「さわるな」とでも言いたげな声が聞こえてきて、レティシアは手を止めた。
「それは書庫に返そうと思っていたところだ」
「そう。書庫といえば、最近女の子を連れてきたって執事に聞いたわ。貴方が人を連れてくるなんて、珍しいじゃないの」
「古代薬に興味があるらしいから…ただそれだけだ」
「その文書に関係ある人なの?」
「…わからない」
「ふぅん。まあいいわ。私の用件を話すわね。実は前に作ってもらった美肌水がほしいの」
「また?…っていうか、あれ、かなり量があったはずなんだけど!?」
「私の分じゃなくて、お友達の分よ。少しわけてあげたら評判良くて。お金はいくらかかっても構わないから、舞踏会までによろしくね」
レティシアは言いたいことだけ言って調合室を出ていった。