躊躇いのキス
 
「仮」という言葉に凹んでいると、雅兄はさっさと運転席の扉を開けて乗り込もうとする。

やっぱりそう簡単には
甘い恋人ライフなんて待ってないよね。

そう思っていたけど、


「ほら。早く乗れ。
 遅刻するぞ」

「………うんっ」


だけど雅兄は優しい。

一言声をかけてくれて、あたしは慌てて車の助手席に乗り込んだ。


「言っとくけど、前と同じ途中の駅までだからな。
 俺だって遅刻するし」

「うん。それでも嬉しい。
 雅兄と一緒にいられるなら」

「……」


一度素直に告白してしまえば、結構楽なものだ。

気持ちを押し込まず、天邪鬼な態度も取らないで済む。


雅兄は顔色一つ変えず、そのまま車を発進させた。
 
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