躊躇いのキス
 
「自分で照れ過ぎ」
「だってっ……」
「でも本気の話さ、
 普段、雅兄なんて呼ばれている人から、いきなり呼び捨てで呼ばれるのって、結構ドキッとすると思うよ?」
「そうかなぁ……。イラッとしない?
 ほら、あたし5つも年下だし」
「するかもね」
「智世ー!」


こっちが真剣に悩んでいるというのに、さらっとさっきとは違う返し。

いったい、どっちを受け入れれば……。


「ま、その雅人さんが、本当に侑那のことを好きでいるんなら、イラッとなんかしないよ。
 タイミングを見計らって、呼んでみるのも手だよ」

「………うん…」


イマイチ自信ないけど……
確かに一理あるかもしれない。

呼べる機会があったら、呼んでみよう。


「あ、そうだ。
 あと今日は渡したいものがあったんだった」

「え?」


お腹が満たされた頃、思い出したかのように鞄を漁る智世。

何かと思って、智世の行動を見つめていた。


「これ。
 いらない?」

「え?」


テーブルの上に出されたのは、映画のチケットだった。
 
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