躊躇いのキス
金曜日はすぐにやってきて、
いつもは行きも帰りも仕事用でスーツ出勤をしていたけど、
今日だけは私服をもっていって、仕事帰りに着替えた。
一本に束ねていた髪もほどき
てぐしで整える。
待ち合わせの駅へ向かうと、そこにはもう雅兄の姿があった。
「遅い」
「え、あ、ごめんっ」
「嘘」
第一声が、不機嫌な声だったので慌てて謝ったけど、すぐにそれはイタズラな笑みへと変わる。
「髪、おろしてきたんだ?」
「うん……。だって……」
「俺が、そっちのほうが好きって言ったから?」
分かり切っているのに、あえてそんなことを聞いてくる。
照れくさくて、目を逸らすと、
「……そうだよ」
と、少しすねた口調で返してやった。
全部全部雅兄のため。
オシャレも時間もお金も、
雅兄のためだけにある。
「可愛いじゃん」
「……」
ほら、その一言が聞けるから
あたしはこんなにも一生懸命になれるんだ。