躊躇いのキス
 
「……侑那ちゃん?」

「あ、あはは……」


映画館に入って、雅兄はニコリと微笑みあたしの名を呼ぶ。

「ちゃん」付けなんて懐かしすぎるわ。


「何これ」
「え、映画館です」
「じゃなくて、この席は?」
「カ、カップルシート?」


決して目を合わさず、あさっての方向で答えた。

だけどそれを許さず、雅兄はぎゅむっとあたしの顎を掴むと、


「侑那のわりには、ずいぶん手の込んだことすんじゃん」


なんて、満面の笑みで言われて
思わず冷や汗をかいた。

 
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